あなたは学校や職場で大勢が力を合わせて作業するとき、
予想していたよりも進みが遅いと感じてしまう事がありませんか?
むしろ少人数のときの方が効率が良いのでは・・と思うこともあるでしょう。
この現象を何と呼ぶかご存知でしょうか。
答えは
「社会的手抜き」
といいます。凄い字面ですよね。
この言葉、人が集団で作業するときに怠け、
1人で作業するよりも一人当たりの効率が低下することを表す言葉なのです。
「社会的手抜き」は20世紀初頭に農学者のリンゲルマンが行った実験により、
リンゲルマン効果とも呼ばれます。
仲間のパンダ3頭とイベントで使う装飾用の小物を作っていたんだけれどさ、思ったより作業が進まなくて持ち帰ることになったんだよ。ああいうのって人数が多い方がかえって進まないんだよね。どうしてだろう?
それは社会的手抜きじゃな。集団で共同作業を行う際、1人当たりの課題遂行量は人数の増加に伴って低下する現象がある。別名をリンゲルマン効果、フリーライダー(ただ乗り)現象、社会的怠惰ともいう
20世紀初頭のフランスの農学者マクシミリアン・リンゲルマンが行ったある実験から名付けられたのじゃ。次はリンゲルマンの行った実験について説明しよう
社会的手抜きについてのリンゲルマンの実験とは?
社会的手抜きとは、人は集団に属する人数が増えるほどに手抜きをする事が増え、
結果として人数当たりの仕事のパフォーマンスが低下するという現象のことです。
これについて1913年にフランスのリンゲルマンという農学者が実験を行いました。
リンゲルマンは綱引きでの牽引力を測定する実験を行ったのじゃ。綱引きの人数を変えていくことで、綱を引いたときの力のパーセンテージを測った
結果として1人だけで綱を引いた時の力を100%とすると、2人で引っ張ると1人当たり93%。5人では70%、8人では半分になってしまうことが分かったのじゃ
えええ!人数が増えるほど本気を出さなくなっていくってことか!
人は集団になると手を抜くということがはっきりとわかるだろう。似たような法則で『傍観者効果』や『働きアリの法則』というものもあるので紹介しよう
リンゲルマン効果と傍観者効果、働きアリの法則とは?
リンゲルマン効果と比較される言葉に「傍観者効果」や「働きアリの法則」があります。
それらは似ているのですが、やや意味が異なるのでそれぞれの違いについて説明します。
①傍観者効果とは?
傍観者効果とは社会心理学の用語で集団心理の一つじゃ。例えば誰かが急病で倒れたとき、御パンダはどう動く?
その場に複数の人がいる場合はどうだ?そのときにお前は動けるのか
うーん。ちょっと様子をうかがってしまうかもしれないね。他の誰かが動くかもって思ってしまう
自分以外に傍観者がいるときに率先して行動を起こさない心理、それこそが傍観者効果じゃ。傍観者が多くなればなるほどその効果は高くなる
確かに。防災訓練で教わったけれど、急病人が居ても大勢いるときは助ける人が少ないんだってね
だからこそ、救命訓練の場合はその場にいる『誰か』に助けを求めるのではなく、その場にいる人を指定して助けを求めることを指導される。例えば『そこのあなたは119番に電話して下さい』、『そこのあなたはAEDを取りに行って下さい』という風にじゃ
自分は関係ないって思っちゃうから何もやらないんだね。でも、自分の仕事だと思えばみんなちゃんと動くんだ。傍観者効果って怖いな
リンゲルマン効果との違いはリンゲルマン効果は最初から傍観者ではなく当事者だということじゃな。当事者なのに仕事をしないとはけしからん
なるほど。自分の仕事なのに人数が増えると働かなくなるんだ。自分がやらなくても大丈夫って思ってしまうからかな
②働きアリの法則とは?
もう一つ、リンゲルマン効果と似たような法則で『働きアリの法則』というものがある
リンゲルマン効果は『手抜き』のことでしょ?なんで働きアリが似ているの?働きアリは勤勉だから手抜きをしないんじゃないの?
ところが働きアリの中でもサボるアリがおるのじゃ。働きアリは『よく働いているアリ』、『普通に働き、時々サボるアリ』、『ずっとサボっているアリ』の三種類に分かれるのじゃ。内訳は以下の通りじゃ
働きアリのうち、よく働く2割のアリが8割の食料を集めてくる。
働きアリのうち、本当に働いているのは全体の8割で、残りの2割のアリはサボっている。
よく働いているアリと、普通に働いている(時々サボっている)アリと、ずっとサボっているアリの割合は、2:6:2になる。
よく働いているアリ2割を間引くと、残りの8割の中の2割がよく働くアリになり、全体としてはまた2:6:2の分担になる。
よく働いているアリだけを集めても、一部がサボりはじめ、やはり2:6:2に分かれる。
サボっているアリだけを集めると、一部が働きだし、やはり2:6:2に分かれる。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%83%8D%E3%81%8D%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87
数が減っても比率は変わらないんだね。真面目な人達だけになると一部がサボりはじめる…。その一方でサボる人だけ集めたら働きはじめる人が出てくるわけだ。
うむ、やる気のない人間がいる場合、やる気のない人間だけで作業させるというのも一つの解決策じゃ。もともと地力があればおよそ20%の人が法則に従って働くタイプに変質し、新たな戦力となるということじゃな。よって、リンゲルマン効果を防ぐには集団の人数を減らすことが有効じゃ。多くの人数で仕事に当たらざるを得ない場合は少人数の精鋭集団を多数つくり、細分化した仕事を割り当てるといいじゃろう
ふむふむ。リンゲルマン効果についてだいたいわかってきたけれど、どういったときにリンゲルマン効果が起こりやすいんだろう?
よし。では次にリンゲルマン効果の実例についてあげてみよう
リンゲルマン効果の実例は?
リンゲルマン効果の具体例としては先程挙げた「綱引きの実験例」が有名ですが、他にもいくつかの実験例がありますのでご紹介します。
実験例1:チアリーダーの場合
研究者であるラクネとハーディが行った実験じゃ。2人のチアリーダーに目隠しとヘッドホンをつけてもらい、お互いの状況を確認できないまま、大声を出してもらう。次に1人だけで行う。計測量はどうなったと思う?
うーん。話の流れからすると、ペアのときより1人の方が音量が大きいってことになる?
その通り!しかし、彼らはどちらのときも全力を出していたと思っておった
本気を出してたつもりが結果が伴わないってこと?それってどういうこと?
つまり、『リンゲルマン効果は結果として無意識のうちに起きる現象』と証明されたのじゃ。誰もわざと手を抜いていたわけではなかった
実験例2:プロフェッショナル集団の場合
人間は集団になると無意識に手を抜いてしまうものなんだね!
ところが、そうとは言い切れない実験結果もある。2015年にEテレで放送された『大心理学実験』は非常に興味深いぞ。まずは最初は綱引きの実験と同じものをボディビルダーが行った。ボディービルダー5名が『停車したトラックを縄で引っ張る』という実験じゃ。結果としてはリンゲルマンの実験と変わらん。しかし、その後が面白いのじゃ
綱引きのプロである綱引き連盟の人たちで同様の綱引き実験を行なった場合どうなるのかを検証したのじゃ。実験の結果、1人→3人→5人と試してみても、一人あたりの力は全く低下しなかった!
すごい!その道のエキスパートの人達ならリンゲルマン効果は発動されないんだ!
偶然かもしれんが一人一人にプロフェッショナルとしての誇り、絶対に手抜きしないというマインドセットが強固で矜持があったのじゃろう
実験例3:応援の場合
同じく『大心理学実験』にて行われた実験で、チアリーダーによる応援の実験がある
ただし、主役は応援される方じゃ。トラックを綱で引っ張るとき応援されると力は増すのか?
結果としてチアリーダーの応援があったところ、人数が増えても1人のときと同じ力を発揮できた
人間って単純!それにしても、応援の効果ってすごいんだね
応援にはそれだけの力があるということじゃ。続いての実験では同じ応援でも『特定の1人だけの名前を読んで応援』ということを行ったぞ
えー。絶対応援されなかった方のやる気がなくなっちゃうよ
その通り!応援された1人は100%に力を発揮するものの、残りは更に手抜きをする結果となった
集団の中でも手を抜かずに頑張るには、自分のことを見てくれている、応援している誰かの存在が不可欠ということじゃ。つまり、仕事においても頑張りを正しく評価してくれる上司の存在が重要ということじゃな
リンゲルマン効果って興味深いね。それにしてもどうして集団でいると手抜きが発生してしまうんだろう。やる気が低下するから?
うむ。では次はリンゲルマン効果が起こってしまう背景について検証してみよう
リンゲルマン効果が起こってしまう背景とは?
集団での作業を行う上で無意識に手抜きが発生してしまうのはどうしてなのでしょう?動機を検証してみましょう。
リンゲルマン効果が発生する要因には次のような環境や心理的な要因が考えられるぞ
・集団の中で、自分だけが評価される可能性が低い環境。
・優秀な集団の中にあって、自分の努力の量にかかわらず報酬が変わらないなど、努力が不要な環境。
・あまり努力をしない集団の中では、自分だけ努力するのは馬鹿らしいという心理から、集団の努力水準に同調する現象が起こる。
・他者の存在によって緊張感が低下したり、注意力が散漫になるなど自己意識の低下がパフォーマンスに影響を与えるメカニズムが働く。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E7%9A%84%E6%89%8B%E6%8A%9C%E3%81%8D#cite_note-FOOTNOTE%E9%87%98%E5%8E%9F201320-31-1
なるほど。やっても評価されないことでやる気がなくなるんだね。集団が大きくなればなるほど個人の動きは見えづらくなって評価されづらくなるもんなー。また、やる気のない人がいると影響されてやる気がなくなってしまうのか
うむ。リンゲルマン効果が起きる主な原因には『周囲に対して自分の働き(貢献度)が隠れている状況』が挙げらる。具体的には、組織の中で自分の働きが評価されていない(評価されにくい)ことや、昇給や昇給が一律で行われるなどが該当するぞ
時給がなかなかあがらないとやる気が失せていくよね。気持ちはわかる
また、従業員が多い企業ほどリンゲルマン効果が起きやすいと考えられるぞ。『誰かがやってくれる』、『どうせ努力しても報われない』といった意識でリンゲルマン効果が発生しやすくなるからじゃ
なかなか評価されないと腐ってしまうし、腐った人が多くなれば周りも影響されるし。悪循環だね
大きな組織は立ち回りが難しいものじゃ。リンゲルマン効果は企業の経済活動に大きな弊害をもたらす。1人あたりの生産性が低下し、受け身の社員が増加する。それによって各自のモチチベーションの低下により更に作業効率も悪くなってしまう
この悪循環を断ち切るにはどうしたらいいの?
先述した通り、大きすぎる集団を作らないことが良いだろう。少数精鋭の部隊をたくさん作ってそれぞれ専門的に活動させるのじゃ。その他にもリンゲルマン効果を避ける方法はあるので、次に紹介しよう
リンゲルマン効果を予防するには?
集団で作業するとき、リンゲルマン効果を避けることは難しいです。
しかし、最小限に抑える方法はあります。
社会心理学者の釘原直樹氏の提唱するリンゲルマン効果の予防に効果があると考えられる9つの項目を見てみましょう。
リンゲルマン効果を予防するために効果があると考えられるのは以下の9つじゃ。実際に企業において従業員に活用できるかどうか検証してみよう
・罰を与える
・社会的手抜きをしない人物を選考する
・リーダーシップにより集団や仕事に対する魅力の向上を図る
・パフォーマンスのフィードバックを行う
・集団の目標を明示する
・個人のパフォーマンスの評価可能性を高める
・腐ったリンゴを排除し、他者の存在を意識させる
・社会的手抜きという現象の知識を与える
・手抜きする人物の役割に気づく
① 罰を与える
集団全員に共通する目標を立て、達成できなかった場合は何かしらの罰則を与える方法じゃ。人間は得るものより失うものに敏感であるという性質を利用した手法じゃな
確かに。ただし目標を設定するたびに罰則を規定していると過度なプレッシャーがかかってしまうな。また、短期的な成果のみを追い求める人も出てくる
② 社会的手抜きをしない人物を選考する
こちらは逆転の発想じゃな。リンゲルマン効果を受けにくい人を雇用すればよいという発想じゃ
採用時の面接で注意していれば一定程度は効果を得られるだろう。とはいえ働きアリの法則に見られるように、雇用した後に怠けることもあるので要注意じゃな
難しいよね。でも、怠けなさそうな人を雇うっていうのは当然のことだよね
人事はもちろんそうしたいのじゃが……なかなか面接の時点で見抜くのは難しいな
③リーダーシップにより集団や仕事に対する魅力の向上を図る
従業員を鼓舞する方法じゃ。企業のビジョンやミッションを再認識させたり仕事の意義を確かめさせたりして、モチベーションを向上させる
チアリーダーの例に似ているね。やる気を起こさせるんだね!
従業員は社風や仕事内容に興味をもって働いているケースが多いため、比較的効果を得やすい手法じゃ。ただしリーダーシップを持っていないと厳しい
優秀な集団を形成させるためにはリーダーが重要になってくるね
④パフォーマンスのフィードバックを行う
個人の作業に対してフィードバックし各人が集団へどのように貢献できているかを認識させるやり方じゃ。集団での作業だと一人ひとりに目を向けにくいため、やりがいを実感できないことがある。そのため、それぞれにフィードバックして従業員に『自分の仕事には意義がある』、『頑張りを認めてくれる人がいる』と実感させるようにするのじゃ
これは素晴らしいね!各個人のやる気が頑張りをきちんと見て認めてあげられる現場だと、従業員のモチベーションも上がる!
⑤ 集団の目標を明示する
集団で達成させるべき目標をあらためて確認させる対策じゃ。目標が明確になれば作業量を逆算できるため、業務への取り組み方も改善できる
目標がはっきりしていると働き甲斐があるよね
しかし、ここでポイントとなってくるのは、個人ではなく集団の目標を明確にするということじゃ。場合によっては自分が努力せずとも他の人さえがんばれば目標を達成できる点は変わりない。そのため効果を得にくいのが難点じゃな
⑥ 個人のパフォーマンスの評価可能性を高める
個人の成果を計測し評価できる体制を整える方法じゃ。監視カメラやコンピュータで人がいなくても一人ひとりの進捗を確認できるようになった
カメラやコンピューターをうまく活用すれば少ないコストで対策を立てられるね!
集団の業務を個人の業務かのように疑似体験させることで、リンゲルマン効果の影響を抑えることができるぞ
⑦ 腐ったリンゴを排除し、他者の存在を意識させる
腐ったリンゴは他のリンゴを腐らせてしまうので排除せねばならない。同様に手抜きをしている存在をなくすことで集団のモチベーションをあげる
サボる人に影響してサボってしまうのを防止するんだね
ゴミの散らかっている街では犯罪率が高くなるという実験結果がある。環境はリンゲルマン効果を誘発させることがあるので整えなければならない
排除するってことはサボる人を解雇するってこと?そんなに簡単にできるのかな?
うむ。そこが難しい問題じゃな。リストラは離職率の上昇につながるので慎重な行動が求められぞ
⑧社会的手抜きという現象の知識を与える
リンゲルマン効果は無意識に起こってしまうことが多い。そのため、リンゲルマン効果の存在を従業員に知らしめるのじゃ
集団になると怠けやすくなるってことを最初から自覚させるってことだね
人間は無意識に手を抜く可能性があることをあらかじめ伝えることで、従業員各自にリンゲルマン効果の防止を促すぞ。真面目な従業員であれば自身で対策を取ることだろう
でも、リンゲルマン効果を言い訳に怠ける従業員が出たりして
⑨ 手抜きする人物の役割に気づく
リンゲルマン効果をポジティブに捉えるという新しい考えじゃ。働きアリの法則にもあるように一定数の従業員はどうしても怠慢する傾向にある。しかし、仕事に積極的でない彼らをむしろ貴重な人材だととらえ、短期的に業務には直接関係ないが重要なタスクに就かせるのも良いだろう
本体の動きとは関係のない別働部隊みたいにするんだね!逆転の発想!
こうして対策9つを検証してみたが、どれも一長一短あるじゃろう
しかしながら、『④ パフォーマンスのフィードバックを行う』と『⑥ 個人のパフォーマンスの評価可能性を高める』が比較的現実味を帯びた対策であると思われるぞ。『⑧社会的手抜きという現象の知識を与える』も真面目な人物ならば効果がありそうじゃ
逆に『② 社会的手抜きをしない人物を選考する』や『⑤ 集団の目標を明示する」はあまり効果がなさそう
極端な選択である『① 罰を与える』、『⑦ 腐ったリンゴを排除し、他者の存在を意識させる』は実際の職場において活用が難しいだろう
④と⑥が対策しやすいんだけれど、実際に活用するにはどうすればいいんだろう?
それならば1on1ミーティングが効果的じゃ。これは1対1の会議のことじゃ。部下の目標設定や進捗の確認、フィードバック、雑談など、企業や部署によっても内容は異なるがおおむね部下を育てるために実施されるものじゃ
フィードバックと個人パフォーマンスの評価、両方ができるからリンゲルマン効果の解消に繋がるかも!
リンゲルマン効果とは?傍観者効果との違いは?働きアリの例と考察 おわりに
いかがでしたでしょうか。
リンゲルマン効果は無意識のうちに起こってしまうため防ぐことが難しい現象です。
常にモチベーションを維持向上していくには、まず集団の環境を整えることが大事でしょう。
そのためには、一人一人が正しく評価されているという実感を得られるよう、組織を運営する側の工夫が必要になってくるのです。
集団で仕事をするって難しいよね。大勢の人がいるとどこまで自分でやっていいかわからないし。自分が頑張らなくても大丈夫と思うと怠けてしまうのかも。お祭りでお神輿を担いでいる時もそうだよね
しかし、プロフェッショナル集団にはリンゲルマン効果は作用しない。要はやる気の問題なのじゃが、やる気を起こさせるためには環境の整備が重要じゃ。集団のやる気を向上させるシステムを会社側が確立させる必要があるぞ
最後までお読みいただきありがとうございました。