あなたは、ファストファッションと聞いて、何を思い浮かべますか?
最近では、テレビや新聞のニュースでも多く取り上げられているので、
「あまりファッションに詳しくない」
という方でも一度は聞いたことのあるワードだと思います。
ファストファッション、という名前が頻繁に呼ばれるようになったのは
2000年代半ば以降のこと。
気が付けば、街のいたるところにその店舗を目にするようになっているはずです。
「ブームはいつ、どこから来たの?」
「そもそも、ファストファッション、ってどういうファッション?」
「・・・とは言いつつも、今やみんな当たり前に使っているこのワード。
いまさら人に聞けないしなあ。」
そんなあなたに向けて、
今回は、ファストファッションについて、その意味や歴史についてご紹介いたします!
「ファストファッション」の意味とは?
ファストファッションとは、
「早くて安い」が代名詞の「ファストフード」になぞらえて呼ばれるようになった、
アパレルブランドの総称です。
具体的にいうと、その「ファスト=Fast(早い)」という言葉にある通り、
最新の流行をいち早く採り入れながら、短いサイクルで安価な衣料品を大量に生産し、
販売するファッションブランドやその業態のことを指します。
ファストファッションの仕組みは?
これまでの常識を覆す低価格を実現するために、
製造小売業(SPA= Speciality store retailer of Private label Apparel)(※)を
採用している会社が多いことが特徴です。
(※)販売店が商品企画を自ら手掛け、自社内に製造部門をもつ業態
つまり、それまでは、アパレルメーカーは百貨店などに販売を委託して
販路を確保していることが一般的であったのに対し、
「ファストファッション」ブランドは製造から販売までをすべて自社で完結することで、
中間マージンのカット・生産のコントロールにより、低価格を実現しているのです。
その甲斐あって、「オシャレで、流行の衣料品が安く購入できる」として、
日本では2008年に、スウェーデンのアパレルメーカー「H&M」の上陸を皮切りに、
一気にブームに火が付きました。
2009年にはユーキャンの「新語・流行語大賞」のトップテンにも選ばれているほどです。
「ファストファッション」の日本での変遷、歴史について
先ほど、日本では2008年に「H&M」が上陸したのをきっかけに
ファストファッションブームに火が付いたとご説明しましたが他ブランドはどうでしょう。
GAP
日本におけるファストファッションの「はしり」といえば、ずばり「GAP」です。
「GAP」は、1995年に銀座に1号店をオープンさせ、
おしゃれなCMと「アメカジ」ブームに乗って多くの若者から支持を集めました。
しかし、2000年代になると、
前述した「H&M」や「ZARA」の勢いに押され、「GAP」は少し低迷してしまいます。
その背景には、「アメカジ」ブームの衰退と、「H&M」や「ZARA」が
「パリコレで見たようなモードな洋服を低価格で提供する」
というコンセプトでの台頭がありました。
ZARA
「ZARA」はスペイン発のブランドで、
1998年に渋谷に日本1号店をオープンさせました。
2003年に銀座と六本木ヒルズに同時に店舗をオープンさせてから
一気に人気を獲得しました。
そして、「H&M」の上陸をきっかけとした、
日本における「ファストファッションブーム」に乗ってさらに店舗数を伸ばしました。
「H&M」は銀座、原宿に店舗をオープンさせ、
2009年には予想を上回る売り上げをあげたとされています。
その「H&M」に続き、2009年は「黒船」とも呼ばれた
海外ファッションブランドが相次いで日本に店舗をオープンさせた年でした。
フォーエバー21
まず、大きく注目を集めたのが
アメリカロサンゼルス発のアパレルブランド「フォーエバー21」。
圧倒的な低価格と商品の回転の早さが話題を呼び、
オープン当時は並ばなければ店舗に入れないという事態に。
マスコミにも多く取り上げられ、
「ファストファッションブームの到来」を強く印象付けるきっかけともなりました。
その他、「Abercrombie&Fitch(アバクロンビー&フィッチ)」(通称アバクロ)や
「American Eagle Outfitters(アメリカン イーグルアウトフィッターズ)」など、
海外ファストファッションブランドが続々と日本1号店をオープン。
原宿の明治通り沿いのエリアはたちまちファストファッション激戦区と化し
多くの若者がこぞって押し寄せました。
一方、日本のファストファッションブランド「UNIQLO」の存在も忘れてはいけません。
「UNIQLO」は1984年に山口県で第一号店をオープンさせました。
元々は、ナショナルブランドの衣料品の小売店でしたが、
1997年頃からプライベートブランド商品の取り扱い率を高め、
「GAP」をモデルとして、製造小売業(SPA)へ事業転換を進めました。
そして、当時の経済状況にマッチした「低価格・高品質」商品の販売に乗り出しました。
1998年にはフリースジャケットが大ヒットし、一躍その名を世に轟かせました。
その後、一時業績不振に陥るも、
国内外ブランドの買収や広告戦略に力を入れるとともに、
2009年にはデザイナーJil Sander(ジル・サンダー)氏と契約するなど
低価格と高品質を売りに、ファンを国内外に獲得し、続々と店舗数を増やしていきました。
「ファストファッション」の現在、ブームの終焉について
ウィキペディアによると、2016年には、
なんと日本国内の外資系ファストファッションの店舗数は2倍以上になり、
日本人の着ている衣料品の45%が安価な衣料品という試算もあったそうです。
国内ブランドについては、2017年8月期の決算によると、
「UNIQLO」は国内に831店舗、海外に1089店舗を展開しました。
また、それ以上に店舗数が多かったのが「しまむら」で、
なんと2017年2月には1365店舗を展開していたそうです。
ファストファッションの閉店ラッシュが始まる
そして、2018年。
ファストファッションの象徴ともいえるH&M銀座店が
2018年7月に閉店したことがニュースになりました。
さかのぼること1年弱、2017年10月にはフォーエバー21の旗艦店である
原宿店も閉店に追い込まれています。
2015年から2017年には、
イギリスのファストファッションブランド「Topshop」や「GAP」傘下の
「Old Navy」といった象徴的なブランドが相次いで日本市場から撤退していきました。
生き残ったファストファッション2社
「ファストファッションブームの終焉」が囁かれている一方で、
「ZARA」は2018年1月期連結決算によると、
国内に98店舗、海外に2118店舗を維持しています。
「ZARA」と「Bershka」を展開するINDITEX社は、
両ブランドの健闘により、店舗数・収益ともに増加させる結果となりました。
オンライン売り上げも好調です。
また、「UNIQLO」も2018年8月期決算によると、
売上収益、営業収益ともに過去最高を記録しました。
国内外ともに増収増益を達成していますが、
とりわけ海外ユニクロ事業においては売上収益が国内ユニクロを超えるなど、
すべての地域で大幅な増益を達成しています。
2019年8月期にはさらなる増益増収を見込み、過去最高の業績を目指すとしています。
現在のファストファッションの売上に関しては、当サイトの「ファストファッションの売上ランキングは?国内ではどうなの?」を併せてお読みいただければと思います。
「ファストファッション」の今後
それでは、なぜ、店舗の閉店を余儀なくされた「H&M」を始めとするブランドと、
「UNIQLO」や「ZARA」など好調を記録するブランドの間には
差が出てしまったのでしょうか?
ファストファッションブームを象徴するブランドが
撤退や店舗の撤退を余儀なくされたことからもわかるように、
もはや「ファストファッションであること」だけでは消費者のニーズに応えきれなくなった
ということが言えるのではないでしょうか。
「H&M」をはじめとする多くのファストファッションブランドのビジネスモデルは、
人件費の安い国に生産を委託して生産し、先進国に低価格で販売する、というものです。
しかし、委託先の国で原材料及び人件費が上がる度に、
さらに安い国へと生産地を移すことになり、
その結果、商品の輸送に時間がかかってしまいます。
ファッションビジネスは季節や気候に応じて、いかに素早く準備できるかが大事であるのに、
店舗に到達するまでに遅れをとってしまっているのです。
なぜZARAやUNIQLOは生き残れているのか?
これに対して「ZARA」や「UNIQLO」など、現在も好調であるブランドは、
安いだけでなく、「消費者のニーズや流行をいち早く捉え、提供する」仕組みを
構築できた点でその他ブランドを大きく引き離すことができたのです。
「UNIQLO」を展開する「ファーストリテイリング」の
柳井社長のメッセージを見てみましょう。
高い品質や機能性、着心地の良さ、リーズナブルな価格、豊富なカラーやサイズを展開するユニクロの服は、世界中でファンを増やし続けています。グローバル化、デジタル化がめまぐるしいスピードで進む今、国・産業・企業という既存の枠組みを超えて、人・モノ・情報が自在に動き、企業は情報を軸に、グローバルで競争する時代になっています。こうした時代の変化のなかで、我々はどのような企業になるべきか、どうやって新しい次元の競争に勝ち残るのかということを真剣に考えました。我々は、情報を基軸とする新しい産業「情報製造小売業」になることを決心しました。(中略)大きな成果の一つは、グローバルヘッドクォーターが常に世界中の各地域の本部や店舗と連携を取り、可視化された情報をベースに、一体化した組織として仕事をする体制ができたことです。
(2018.5.11 ファーストリテイリングHP「トップメッセージ」より抜粋)
「UNIQLO」は、店舗やオンラインで消費者のニーズをくみ取り、
データベースとして社内に蓄積し、ナレッジ化することで、
ニーズに合った商品を提供する仕組みを作り上げたのです。
顧客のニーズに応えるための仕組み作りに取り組んだインティデックス社
「ZARA」を展開する「インティデックス」社も同様に、
「顧客のニーズに応えることを最大の目的に据えている」とします。
我々の製品をデザイン、製造、供給する際には、持続可能性に配慮しながらも常に、どのようにすれば顧客サービスと顧客体験の質を向上させることができるか、について考えています。フィードバックに耳を傾け、リアルタイムのセールスデータを分析し、短期間での商品製造、流通投資を行うことで、2週間に1度新しいスタイルで店舗を更新し、顧客のニーズにピンポイントに応えることを可能としているのです
Whether we are designing, manufacturing, or distributing our products, we are always looking at how our operations can improve?customer service and the quality of the customer experience ? while honouring the commitments to sustainability that our customers expect from us. Listening to feedback, analysing real-time sales data, making short production runs, and investing in state-of-the art logistics allows us to pinpoint and meet customer needs, refreshing our stores with new styles twice a week.
(インティデックス社HPより抜粋)
以上のように、ただ単に、「安くて早い商品の回転」だけでなく、
高品質であったり、流行にいち早く対応することのできる、
「消費者満足」を一番に据えたビジネスモデルや情報システムを構築できたブランドが、
「ファストファッションブーム」の終焉を迎えようとしている今でも
生き残っていると言えるのです。
これからのファストファッションはどうなる?
今後の展開としては、さらに「顧客中心主義」が主流となり、
いかに顧客のニーズをとらえることができるか、が成功のカギとなりそうです。
また一方では「エシカルファッション」「サスティナブルファッション」という概念も注目を集め始めており、
こちらも当サイトで別途特集しておりますので、この機会にぜひあわせてお読みいただけると、
よりファストファッションの理解が深まるのではないかと思います。
(※1)別記事「エシカルファッションとは?メリットとデメリットをわかりやすく紹介」をご参考にしてください。
(※2)別記事「ファッションにおけるサステナビリティとは?わかりやすくご紹介」をご参考にしてください。
「ファストファッション」とは? おわりに
今回は「ファストファッション」の意味や歴史についてご紹介してきましたが、
いかがでしたか?
「ファストファッション」は日本においても、その安さと商品数の多さで
流行に敏感な消費者の心を捉え、一大ブームを巻き起こしました。
しかし、ここ最近は、ただ「安い・商品の回転が早い」だけでは
生き残れないようになってきているようです。
いかに消費者・顧客のニーズにいち早く応え、商品の製造から流通まで、
高品質なものを提供できるかがファストファッションブランドの明暗を分けました。
最近ではファストファッションの持つ様々な側面(※)から仕組み自体についても再考されてきており、
日本のファッション業界が今後10年、どのような変遷を遂げるか、要注目です!
(※当サイトの他記事「ファストファッションのメリットとデメリットは?」を併せてお読みいただけると幸いです。)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。