老若男女から愛されるコメディアン志村けんさんが
新型コロナウィルスに感染して亡くなられてしまい、
日本中で危機感が高まりました。
最後まで志村さんの治療に用いられていた「ECMO」という装置ですが、
初めて耳にした人も多かったのではないでしょうか。
そこで今回はECMOについて、
何の略なのか、人工呼吸器を用いることのメリットとデメリットとあわせてご紹介します。
ECMOとは何の略?
ECMOとは
「Extracorporeal membrane oxygenation」
という頭文字をとったもので、
日本語で「体外式膜型人工肺」といいます。
2020年3月の日本呼吸療法医学会・日本臨床工学技士会の調査によると、
ECMOの全国の病院への配置台数は約1400台。
東京には196台があり、近畿では大阪に103台、兵庫47台、京都40台、奈良21台、滋賀15台、和歌山12台と続きます。
ECMOはどんな装置?
ECMOはICU(集中治療室)に入室する必要がある
重傷の肺炎を起こしているときに使われ、
経鼻カニューレや酸素マスクといった、入院患者に行われる通常の酸素投与法では
十分に酸素の取り込みができなくなった人が対象になります。
ECMOという装置は肺の機能を“代替”してくれて、
血管の中に直接酸素を入れてくれます。
人工呼吸器で高濃度酸素を強い圧力をかけて送り込んでも、
十分に酸素を取り込むことができないほど
肺がダメージを受けているような場合に最終手段として使われます。
血液を太ももの付け根の血管から取り出した後、
ECMOの「人工肺」に血液を送り、二酸化炭素を取り除きます。
その後、血液を首の付け根の血管に戻すことで、
体の中の臓器に酸素が届けられます。
つまり、ECMOで血液が循環している限り、
肺が止まって呼吸をしていなくても生きることができるため、
肺の機能を使うことが難しい重篤な患者に使われるのです。
ECMOの使用期間は2~4週間で、
その間に肺を休ませて本来の機能を回復させるのが目的です。
人工呼吸器のメリットとデメリット
人工呼吸器を用いることで肺を休ませて回復を促すといった良いことだけではありません。
ICUではこれらのメリット、デメリットと患者さんの病状を総合的に判断しながら治療が行われています。
○人工呼吸器のメリット
肺炎では肺胞に炎症が起こり、
その結果浸出液と呼ばれる水分が肺胞の中にたまります。
水がたまった肺胞では表面張力によってスペースがつぶれてしまい、
有効なガス交換ができなくなります。
人工呼吸器で陽圧をかけてつぶれてしまった肺胞をふくらませることで、
ガス交換を改善させることが期待されます。
また、カニューレ(※)や酸素マスクでは実現できない高濃度の酸素を投与することで
血液中の酸素濃度を上げることができます。
(※)心臓や血管、気管等に挿入する太めの管のこと。
●人工呼吸器のデメリット
・気管挿管と人工呼吸器の不快感が強く鎮静薬が必要となる
・陽圧や高濃度酸素を長い時間使用すると肺がダメージを受ける
・人工呼吸器が原因で肺炎になることがある
・血圧が低下してしまう
・長期間挿管しているとチューブの刺激で気管が狭くなる狭窄(きょうさく)となる
ECMOはVS新型コロナウィルス最後の砦なのか?
人工呼吸器では肺が持たないほど重症になった肺炎に使われるECMOですが、
肺を治す機械ではありません。
強い炎症で傷つき十分に働けない肺を一時的に休ませ、
その間患者さんの命をつなぐための機械です。
また、脳出血などの合併症の危険性もあります。
1~2分間で全身の血液が入れ替わるほどのスピードで回し、血液をサラサラにするため、
必要ないところから出血する可能性があるためです。
その意味で、患者の身体への負担が大きいことと、合併症が脳出血など重篤であることで、
気安くは使えないということで
“最後の”という表現が使われるのだと思います。
ただ、適切な時期に使用開始することで、より有効になる可能性があります。
肺が完全に病気で崩壊しきってからECMOを使っても治りません。
最後の手段でもなく、早く使えば良いということでもないため、
状況に応じた適切な判断が必要となります。
ECMOとは?何の略?人工呼吸器のメリットとデメリットをご紹介 おわりに
現在も感染拡大し続けている新型肺炎コロナウィルスによって、
重篤な肺炎を患う患者が多くなることが予想されています。
日本に準備されている医療機器が不足することも心配ですが、
その医療機器を扱うための熟練した医師・看護師・臨床工学技士が不足することの方がより問題です。
ましてや、ECMOはどこの病院でも行える治療ではなく、
限られた医療機関のみで行える治療であり、
1台のECMOを稼働するためには多大な人員と労力が必要で、
さらに多額の医療コストがかかります。
このため、ECMOの適応(どの患者さんに使用するのが適切かという基準)は
比較的若年で重い持病がない人に限られています。
今、私たちができることは
これらの機器を使用しなければならない重症患者さんの数を減らすこと。
引き続き、ワクチンの早期開発を願いつつ、
1人1人が新型コロナウィルスに感染しているという意識で他人へ感染させない予防をして、
感染拡大を遅らせることが大切です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。